山村の春(2002.5.3)
2002年4月も後半。
山村が怪我をするという事件がおきました。
2階の階段から落下。
その後、ベランダの障害物に爪をはさみ、半分くらいからポキッと折ってしまい大量の出血をしたのです。
その直後くらいから、山村はゴハンを食べなくなりました。怪我をしたせいでしょうか?
少しそう思ったのですが、動きはいたって元気でした。
何かおかしいなぁ。そう思いながら4月27日〜29日の連休に突入しました。
ゴハンを食べない山村はベランダと部屋の中を何度も行ったり来たりします。何か言いたげです。
外に出たいのかなと思った私はヒマな4月29日に散歩をさせる事にしました。
4月29日の昼過ぎ。私は山村を散歩に連れ出しました。
家の外がすぐに野原などがあるので山村の歩きにまかせて私も一緒に歩きました。
すると山村が不思議な行動に出たのです。
山村はありとあらゆる場所で地面の土を掘り始めます。
ここでもない、またここでもない。そんな感じであちこちを少し掘っては移動します。まさに掘る場所を物色しているのです。
私はすぐにわかりました。山村は卵が生みたいのです。
確信はなかったのですが、多分そうなんじゃないかと思いました。
私も山村に良い場所を見つけて欲しくて、向かいの空き地にも連れて行きました。しかし、その日は山村のおメガネにかなう場所は見つからなかったのです。
次の日から5月2日まで、私はまた仕事です。
その間、外に出してあげる事ができません。
山村は卵を生むのを我慢できるだろうか・・。私は毎日気になって仕方ありませんでした。
母の話では、私が仕事をしている間、山村はとても外に出たがってベランダでガタガタと物音を立てていたそうです。
5月3日がやってきました。
朝の8時くらいに目がさめました。山村はすでにベランダで甲羅干しをしていました。
私が起きたのに気が付いてか、外に出してくれという行動を開始しました。
朝食を終えてベランダを見ると山村はベランダの柵に立ったまま寄りかかり、じっとして動きません。
「萬年・・」私が呼びかけて山村の顔を見ると、山村は泣き出しそうな何とも言えない表情をしていました。
その表情を見て私は午前中の用事を後回しにしてすぐに山村を外へ出す事にしました。
本当に卵を生むのかどうかはわかりませんでした。
8:30。
山村は庭のあちこちをウロウロと歩きました。
そして、この前何度も掘る仕草を見せたある場所を手でガサガサと掻き始めました。
どうやらそこに決めたようです。後ろ足でザッザッと地面を掘り始めました。
やっぱり卵を生むんだ。私は確信しました。
これは一日仕事になるかもしれない・・・そう思って私も覚悟を決めてデジカメを慌てて取りに行きました。
山村がここだと決めたのは、土がとても硬い場所です。
とても穴が掘れるとは思えません。最初は地表をガサガサ掻いているだけの感じでした。
それが、時間が経つとともに段々穴が掘れて来るのです。
最初まっすぐにどんどん下に穴を掘って行きます。
まずは右足で掘って土を掴んで地面に上げ、次に左足で掘って土を掴んで地面に上げる。
作業はその繰り返しです。丁寧に丁寧に、そして根気強く、山村はどんどん穴を掘って行きます。
少しずつですが穴は段々と深くなり、山村の足がすっぽり入ってしまう程(10cmくらい)まで掘ると、今度は穴の中を広くします。
風船を逆にしたような感じになるでしょうか。
本当に根気強くやっています。
穴掘り作業は2時間半続きました。
11時近くに穴を掘り終えたのか、山村は穴の中に右足だけを突っ込んでじっとしています。
足を突っ込んだままだというのは穴を見せたくなかったのでしょうか?守っていたのでしょうか?
いよいよだなぁと思った私は山村の後ろでじっとしていました。
11時を過ぎた頃、山村が急に動き出しました。穴から足を出して、穴の正面に体をずらしたのです。
まさにその時、山村の尻尾が付け根のあたりからどんどん大きくなり真っ白な卵が見えてきました!
ゆっくりとゆっくりと卵は山村の尻尾の所から出てきました。
途中、なかなか外に出てしまわないなぁと思っていると、山村は左足で卵が出やすいように外側へ押してあげていました。
そして、土の中へポロッと一個目が出て行きました。
なんてすごいのでしょう。
そして、2個目、3個目と続き・・・山村は合計5個のたまごを生みました。
生むのに約20分間かかりました。
1.片足を穴に入れじっとしています。 | 2.卵が見えてきました。 | 3.どんどんでてきます。 | 4.卵が穴の中に入りました。 | 5.卵を産む時の体勢です。 |
生み終えた山村は休む事なく、今度は穴をふさぐ作業を開始しました。
最初のうちは、土を少しかぶせると穴に足を入れて様子を見、また土をかうせては様子を見るといった細かい配慮をします。
そして、少しずつ回りに盛り上がった土を穴へ入れて丁寧に整えます。
それが本当に少しずつで丁寧で、とても細かな作業でした。
途中、何度か休みました。その時は穴のあった部分の上に後ろ足のひらを合わせて守っている感じなのです。
穴をふさぐ作業は40分かかりました。
最後は本当に見事に穴をふさいでしまい、綺麗に整地してしまっています。
山村は、本当に見事なものとしか言いようのないくらい素晴らしい仕事をしました。
1.穴ふさぎ開始 | 2.最初は確かめながら。 | 3.どんどん穴をふさぐ。 | 4.時々祈るようなポーズで休みます。 | 5.とても綺麗に整地しました。 |
その後、山村はその場を離れようとして何歩か歩いたのですが、足元がおぼつかず、上半身あたりもぶるぶるとしていました。
私は山村を抱えて「ご苦労さま。」と声をかけて、いつものベランダへ連れて行きました。
ベランダについた山村はゆっくりといつもの「かめねこ屋」のカメ台へ上がっていき、夕方まで水に入る事なくたっぷりと甲羅干しをしていました。顔を見ると何だかやさしい表情でもあり、誇らしげでもあります。
そして夕方、水に入り、約1週間ぶりにゴハンをいっぱい食べました。
1999年7月、自然の中で暮らしていたであろう山村を、大雨の後保護。
その直後、水槽の中で卵を産んだ山村。
その後は卵を産む事もなく、私は部屋の中で飼育して冬眠もさせず山村の体調を崩しているのではと思い、すまない気持ちでいっぱいでした。そして、山村と一緒に田舎の実家へ引越しました。
そして二年目。
冬眠はさせていないけど、ベランダで外の景色を眺めながら暮らし始めた山村がまた卵を産むようになりました。
それだけで私は今の生活が山村にとって良かったのだと思えてとても嬉しいのでした。
【おわり】
追記:
「山村の春」は外での産卵を推奨しているものではありません。
山村については、2年以上タマゴを生んでいない事、交尾をしていない事などから、生んだタマゴは孵化しないと考えています。
むやみに孵化の可能性のあるカメを外で産卵させた上、孵化した子ガメを野生に放置する事は私の本意ではありません。
孵化させる場合は最後まで責任を持って下さい。
また、私も孵化する場合はキチンと最後まで責任を持つという意思を持っています。
山村の産卵について、思った以上に反響が大きく、たくさんの人が誤解してしまう恐れがありましたので、ここにお知らせ致します。